インド料理を学ぶ、ことにした。その2

 たとえば火と水だ。オレがやっていたいい加減料理は、おおざっぱにいえば、まずタマネギとスパイス類を炒めて、具材を加え、水を入れて煮込むというものだ。
しかし、ただ加熱すればいい、水を入れりゃいい、というものではなかったのだ。「あたりまえじゃないか、そんなこと。これは『料理』なんだから」今はじぶんにそう突っ込むことができる。以前のオレがただいい加減だった、それはそうなのだが、加えて、どこかに日本式のカレーのイメージを引き摺っていたような気がする。
最初に「知っていたつもり」と言い、そのあとに「何も知っていなかった」と言うのはそこだ。インドに、もともと「カレー」などとひと括りにできる料理なぞない、と分かっていたつもりだが、やはりつい「カレー」はこう作る、という発想に陥っていたのである。それで、いろんな料理をつくれると誤解していたのだ。
たとえば、あるチキンカレー(「ある」というのは、さまざまな種類のチキンカレーのうちの、あるものについて言おうとしているのだ)では、鍋に鶏肉を入れたあと、決して強火にはしない。弱火でじっくり加熱する。そうすると胸肉であってもしっとり仕上がる。また肉から充分に水分を引き出せるので、少しの水を加えるだけで、グレイビーをつくることができる。様子をみながら必要最低限の量を、二、三回に分けて入れたりする場合もある。全然水を使わないグレイビー、というのもある。素材の味が最大限にいかされている。

 あるいはタマネギの使い方。タマネギはありとあらゆる料理のマサラに使われる。無知だったオレは、ただやみくもに細かく刻み、時間をかけて炒めれば炒めるほどいいのだ、と思っていた。でも全然ちがった。
切り方も炒め方も料理によってさまざまだ。薄切りにするときも、粗みじんのときもある。しっとりすればオーケイから、透明になるまで、ほんの少し色づくまで、しっかり黄金色になるまでなどが使い分けられる。オニオンペーストなんてものもある。フライドオニオンも登場する。驚いた。そうか、フライドオニオンなのか!

 フレッシュハーブが頻繁に使われることにも驚いた。いちばん出てくるのは多分、コリアンダーリーフ。料理の仕上げに刻んで入れるだけでなく、米といっしょに炊きこんだり、ペーストにしたりとこれまた多様だ。そしてミント。お茶やお菓子に使うのでなく、料理に使うなんてね。
それからフェヌグリークリーフ!そうか、フェヌグリークはタネだけでなく葉っぱも使うのか。これでできた緑のグレイビー食べてみたい!が、入手不可(だが育てられる?)。これを乾燥させたカソリメティは調達可能。ほかにディルやバジルも出てくる。これらがなくても成り立つ料理がほとんどだろうし、また使うかどうかは好みにもよる場合もあるだろう。だから、ハーブは必携というわけではないが、オレには「インド料理イコール乾燥した粉のスパイスでつくるもの」という先入観があったから、フレッシュハーブを使ってつくるというのは、未知の窓がひらかれるような新鮮な驚きだったのだ。

 そしてナッツとその周辺。カシューナッツ、アーモンド、ピーナッツ、ココナッツ、さらにケシの実やゴマなど、あるときは砕かれ、あるときはすり潰され、あるときは丸ごと具材になり、と多用される。野菜のカレーは、これらナッツ類がつくりだすコクが味を支えていることが多いようだ。

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